> 子どもの食育 > 森に囲まれた町で五感をフル回転 ーー地域みんなで取り組む下川町の食育
札幌からJRの特急と快速を乗り継ぎ3時間半、「まだつかないの〜」とぼやく娘をなだめながら、旧国鉄車両に揺られ下川町へと向かいました。
向かったのは、下川町幼児センター「こどものもり」。
平成18年に幼稚園と保育所が一体となり開設された児童福祉施設です。「今日は、焼き芋に使う落ち葉を子ども達が集めに行ってきたんですよ」とやさしい笑顔で迎えてくれた古屋いづみ先生に、下川町の食育への取り組みについて、お話をうかがいました。
■お話をうかがった人
古屋いづみ先生
下川町幼児センターこどものもり主幹
北海道栄養短期大学(現文教短期大学)卒業。札幌市内の私立幼稚園、町立下川幼稚園を経て同センター設立時より勤務し、平成27年に現職。
保育目標の「たくましく未来に生きる心と身体の育ち」を目指し、日々保育運営業務に従事する。
古屋:焼き芋は、落ち葉を集めて火を起こすところからやるんです。
「働かざるもの食うべからず」で、子どもたちにも積極的に参加してもらって、なかなか火が起きなかったら「あ、落ち葉が足りないから拾ってきて〜」とお願いしたり。
焼けるまでに時間も手間もかかるんですけど、五感を通して体験することを大切にしています。
ーー落ち葉を集めるところから始める焼き芋は格別でしょうね。
古屋:じゃがいも、トマト、ピーマン、にんじん、枝豆などを育てていて、毎朝9時半に子どもたちが水やりをしています。
野菜が収穫できたら、そのまま給食室に持って行って、給食で食べることもあるんですよ。
先日、大根を抜いた時には、玄関に「どうぞご自由に」と置いて、ご家庭にもお裾分けを。
ーーわぁ〜素敵な環境ですね。自分たちで野菜を育てて、それが給食に出てくると子どもたちもうれしいでしょうし、興味を持って食べられそうですね。
古屋:野菜が育っていく過程を見せることも大切にしていて、まだ小さなにんじんを見せたり、「赤いトマトと緑のトマトどっちが先かな?」と興味を持てるような働きかけをしています。
先日、研修にきていた方が「幼児センターでは給食を残す子が一人もいないんですね」って驚いていました。
–それは、すごいことですね。畑だったり、食に興味を持たせるような働きかけのおかげですね。
古屋:食べられない子にも、ほんのひとかけらでもいいから食べてみようか、とほんのちょっとずつちょっとずつ根気強く、諦めないで積み重ねていく。
食べられるようになって、それが自信に繋がるよう、保育士がサポートしています。
入園の時には食べられるものが限られていても、保育士がちょっとずつちょっとずつ支援したり、お友達が食べている姿を見て、「食べてみようかな」と思ったり、みんなの力で励まされたり・・周りとの関係や積み重ねの中で、だんだん食べらるようになっていくんです。
お母さんたちには「ありがたいです」と言われますね。
ーーそれは、本当にありがたいと思います。私の娘も好き嫌いがあって、家庭だと「ちょっとずつ、ちょっとずつ」と思ってもなかなか上手くいかなかったりもするので、うらやましいです。
古屋:お母さんだと言うことを聞かない、っていうこともあるので難しいですよね。
ここだと子どもも「やってみようか」という気持ちになることもあるので、本当にちょっとずつちょっとずつ。少しずつ積み重ねていって、年長さんのクラスになると、給食を残す子が一人もいない。
アレルギー以外で何も食べられないという子はいないですね。
給食の好き嫌いをできるだけなくして、丈夫な体と心に、という目標を掲げて保育をしているので、保育士も根気強くサポートしていきます。
毎日の積み重ねで食べられるようになって、それが子どもの自信にも繋がっていくんですよね。
町の90%が森林に囲まれた下川町。
幼児センターでは、そんな森の町下川ならではの取り組みとして、月に1度、森の遊びを行なっています。
五感を通した気づき、発見、感じる心から自然への感謝、自分で自分の身を守る力が育まれていきます。
古屋:森に入る時には「入りますよ」とご挨拶をして、帰ってくる時には「ありがとう」と敬意を表するんです。森の中では、気づきや発見がいっぱいで、子ども達と共にドキドキわくわくしながら、保育士も感動を分かち合っています。
森の中を登ってくることで足腰も強くなるし、虫や草花、どんぐりなど、子どもにとっては大発見の連続です。
春先の森では、白樺の木にホースをさして、ペットボトルにつないで、一晩置いての樹液を集めておくんです。
ーー白樺の樹液を? どんな味がするんでしょう。
古屋:ほのかな甘みと香りが広がりますよ。
新芽が芽吹き、葉の色が季節とともに黄緑から新緑へ、秋には紅葉になり落ち葉になる。冬には、雪の中で動物の足跡を見つけて「これはなんの足跡だ?」って。
季節ごとに様々な表情を見せてくれる森の中で、子どもたちの豊かな心とたくましい身体が育っていくんです。
季節ごとの取り組みは、森の遊びだけでなく「食」の分野でも。
さまざまな場面で地域の人たちが関わる食育への取り組みについてもお話を聞きました。
古屋:4月にもち米の苗の播種(種まき)を始め、5月に田植えにいきます。
事前に保育士たちが「なぜ田んぼにいくのか?」という目的をわかるようにちゃんと知らせて、子どもたちの気持ちが高まるようにするんです。
田植えの当日は、まず田んぼの神様にお祈りをして、子どもたちはバスに乗っていくというだけでワクワク。
土のぬるっとした感触に最初は、「うわー」と言うけれど、田んぼの中は暖かくて、子どもたちはもう夢中ですよね。
ーー大興奮ですね。
古屋:畑を貸してくださっている方の協力もあって、10年くらい続いているんじゃないでしょうか。
8月に稲の途中経過を子どもたちと見に行って、秋(10月)には稲刈りをします。本物の鎌を使うんですけど。
ーーえ?本物の鎌を?なかなか出来ない経験ですよね。
古屋:下川のJAの方が子ども1人につき1人ついて、危なくないようにサポートしてくれるんです。
毎年やっていると、子どもたちも慣れてくるんですけど、最初に「刃物は危ない」ということをしっかり伝えてあるので、子どもたちも慎重に取り組みます。
古屋:収穫したもち米と、春によもぎを摘むんですけど、それを使って12月には餅つきをします。
こんな風に時間をかけて、苦労して、やっと口に入るという経験も大事。食べることって、手がかかる。
いろんな人が手をかけてくれること、命をいただいて食べることがみんなの栄養になって元気になるということを知って、お米一粒一粒も大切に食べよう、そう感じてくれたら嬉しいですね。
ーー地域の方達との関わりや、作物の成長過程を通して自然と感謝する気持ちが育っていく感じですね。
古屋:そうですね。育っていってほしいし、そういう環境を大切にしたいなと思います。
お米もそうですし、子どもたちがピザ作りをする時には、ピザ屋さんがトラックで窯を運んできてくれてみんなで焼いたり。夏には下川の手のべ麺を使って流しそうめんをしたり・・これは、大人でも結構興奮します。笑
幼児センターだけでなく、地域の方みんなで子どもを育てようと協力していただいて、ありがたいですね。
ーー地域みんなで子どもたちを育てていこう、という姿勢が伝わってきます。いいなぁ。
古屋:お子さんが幼児センターを卒園した後も関わってくださる方もいるんですよ。
お米のお世話をしてくださってる方がそうなんですけど。田植えの時も、育っていく過程もお話をしにきてくださって、子どもと共に育てようという気持ちで接してくださることが嬉しいし、田んぼのお世話もしてくれて、感謝の気持ちでいっぱいですね。
ーー十分すぎるほど、素敵な取り組みをうかがってきましたが、今後さらに取り組んでいきたいことはありますか?
古屋:そうですね・・せっかく続いてきたことを絶やさずに続けていきたいなと思いますね。新たに何かをするというよりは、質の良い関わりを継続していきたいですね。
*
終盤に、古屋先生が「それぞれの年齢によって給食時間が違うんですけれど、温かいものを温かいうちに食べさせてあげられるような工夫をしています。」とおっしゃいました。 そんな細やかな心配りが行き届いているからか、卒園した子たちも今でも「幼児センターの給食美味しかったよね。」と言ってくれるそう。こうした工夫が「食べられるものが増えていく」に繋がっている―。
「地域みんなで子どもたちを育てていこう」という下川の人たちのあたたかい心意気が感じられた今回の取材でした。
下川町では、移住を検討されているご家族向けに、それぞれのご家族に合わせた内容をお選びいただく、“オリジナルツアー”を開催しています。
・森さんぽ+森の恵みでグッズ作り
・ドサンコ乗馬体験
・石窯で焼くピザ作り
・雪山ソリすべり+カンジキ作り
・アイスキャンドル作り etc…
下川町の窓口の方と日程や体験を相談しながら、特別なオリジナルツアーを一緒に考えることができます!
5家族限定のこのツアーをモグマグ編集長高橋一家が一足お先に体験してきました!
すっかり下川町のとりこになった私たち・・
次回はその模様をレポートしますのでお楽しみに^^
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