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子どもの食育暮らしと食

食に興味を持つきっかけはさまざま。ーー函館市が取り組む市民に寄り添う食育活動

2018.08.09
高橋さやか WRITER

高橋さやか

札幌からJRで約3時間半ー古くから港町として栄えてきた函館市は、イカや真昆布などの海産物に恵まれ、20世紀初期に建てられた和洋折衷の建築物が今も残る海と歴史の街です。
同じ北海道内に住みながらも、なかなか訪れる機会がなく、私にとっては10年ぶりの訪問となりました。

まだ肌寒い6月中旬に、はじめての子連れ出張! 函館山の麓に建ち並ぶ教会や、古民家を活用したカフェ、遠くに海をのぞむハイカラな街並みを堪能しながら、夜は透き通るイカ刺しに舌鼓・・と観光も楽しみながら取材へと向かったのでした。
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2016年から離乳食教室で食育フリーマガジンモグマグを活用いただいてる函館市。そのご縁から、6月の食育月間に函館蔦屋書店で行われた「命を支える食卓見直しキャンペーン〜野菜編」の会場へ伺いました。

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「こんにちは。昨日はどんなお野菜を食べましたか?」
「ここにある野菜の中から、昨日食べたものをこのカゴに入れてみようか」

hakodate_3-2蔦屋書店の一角に設けられたキッチンスペースでは、「一日の野菜摂取目標である350gを計量してみよう!」というプログラムが行われていました。赤いエプロンを身にまとった栄養教育研究会(函館市内小・中学校の栄養教諭で構成されている団体)の栄養教諭さん、ピンクのTシャツの函館市のヘルスメイト(食生活改善推進員)さんに声をかけられて、子どもたちは一つずつ野菜を選んでカゴに入れていきます。

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結果は・・?

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子どもたちがプログラムを楽しんでいる間、隣接するフリースペースで函館市保健福祉部健康増進課/管理栄養士の清水玲子さんと澤中真奈美さんに函館市の食育事情について伺いました。

■お話をうかがった人

清水玲子さん
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昭和59年 日本女子大学卒業 翌年、函館市職員採用。
市立函館病院勤務を経て、平成10年より、市立函館保健所(現:保健福祉部健康増進課)勤務。
乳幼児検診、特定給食施設指導、食品表示法(栄養成分表示)の相談や食育教室等に従事。
平成23年 はこだてげんきな子 食育プラン(函館市食育推進計画)を策定し、食育の推進に取り組んでいる。

澤中真奈美さん

hakodate_6平成7年 北海道文教短期大学卒業 民間病院勤務を経て、平成14年より函館市職員採用。
市立函館保健所(現:保健福祉部健康増進課)勤務。
乳幼児検診、特定給食施設指導、食品表示法(栄養成分表示)の相談や食育教室等に従事。
平成23年 はこだてげんきな子 食育プラン(函館市食育推進計画)を策定し、食育の推進に取り組んでいる。

ーー久しぶりの函館で、今日は楽しみにやってきました。イベントでお忙しい中お時間をいただきありがとうございます。子どもたちが計量体験をしていますが、なかなか1日に必要な野菜の量を目で見ることってないので、良い経験ですよね。

清水:そうなんです。6月は食育月間ということで今回は野菜をテーマにしたイベントです。こちらの澤中さんがアイディアマンで、色々な企画を考えてくれるんですよ。おととしは、蔦屋書店の全館を使ったイベントを企画してくれました。

澤中:ランチョンマットを作るブース、主食や主菜のカードを選んでそのランチョンマットに乗せていくブース、最後に選んだもののバランスはどうかな? と栄養士が指導する。全館を使っての大きなイベントだったので、大変でしたけど、子どもたちも喜んで参加してくれたので楽しかったですね。

ーーそれは、楽しそうですね! 何名くらい参加されたのでしょう?

澤中:累計で3,000名くらいの方が参加してくれました。蔦屋書店さん自体が、休日だと1万人くらいいらっしゃる施設なので。イベントが目的じゃなく来られた方も、場内のアナウンスや通りかかって「何やってるのかな?」と参加してくれました。昨年は、1回で大きなイベントにしたんですが、今年はそれを4回に分けて実施します。今回は野菜がテーマ、9月には乳製品をテーマにして開催します。

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ーーたくさんの方が興味を持つきっかけになっているんですね。こうしたイベントの他にはどのような活動があるのでしょう?

清水:2ヶ月に1度、離乳食教室を実施しています。はじめてのことで、みなさん不安を抱えながら参加されるので、少しでも不安を解消できるように「こんなに簡単にできるんだよ」というデモンストレーションを交えてお伝えすることを心がけています。最初は不安そうにしていた方が「離乳食を作るのが楽しみになりました」と帰り際に声をかけてくれた時は、嬉しかったですね。

澤中:試食してもらう場面もあるので、出汁だけで煮たお野菜を食べてもらって、「これだけでも、こんなに美味しいんだ!」と感じてもらえるのは嬉しいですね。

hakodate_17ーーモグマグの読者の方からも「薄味ってどのくらいにしたら良いのかわからないんです」という声をいただくことがあるので、試食できるのは参加された方も目安が知れて嬉しいですよね。

清水:そうですね。出汁の取り方もお伝えしていて、函館は昆布の生産量が一番なので地元の素材を使ってこんなに美味しいだしが取れるんですよ、ということを知ってもらいたいなと思っています。
離乳食の初期から使える昆布だし、中期からの鰹だし、大人のための薄味のだしと3種類をお伝えしています。

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ーーそれは、すごくわかりやすいですね。

澤中:試行錯誤しながらなので、そう言っていただけると嬉しいです。例えば、デモンストレーションの中で人参を潰すこと一つをとっても、「どのくらい潰せばいいのかがわかってよかった」という声をいただいたりしますね。

ーーどのくらい潰せばいいのかって意外とわからないんですよね。どのくらいの硬さなら良いのか、本や写真だけだとよくわからなくて、大人の感覚で「大丈夫かな?」「いけるんじゃないか?」とやってしまったところがあったので・・長女はびっくりしてたと思いますけど。苦笑(スタッフたてまゆ)

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澤中:参加しているお母さんたちから、人参の皮をむくだけで感動があったり、かぼちゃの切り方一つとっても「こうやって切ればいいんだ!」という反応があって、一つ一つ調理するということがなかなか少なくなっているのかな、と感じています。教室への参加をきっかけに、少しでも家族みんなで食事を作って食べてもらう良い機会になれば・・と思っています。

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函館市では、5年に一度食育計画を策定し、プランの周知や取り組みを進めています。
具体的な目標として定められているのが、「はこだてげんきなこ」。子どもを中心にすえることで、周囲の大人へも食育への理解を深めていくことを狙いとしています。

は:早寝早起き朝ごはん。規則正しく毎日を過ごそう!
こ:心とからだを育てるみんなで囲む食卓を大切にしよう!
だ:大事だよ、しっかりかむこと磨くこと。
て:手間かけて、愛情込めて作りましょう。
げん:元気なからだをつくる、食事をきちんととろう。
き:郷土の食材を取り入れた料理を覚えよう!
な:なんでも美味しく食べよう!
こ:声に出し「いただきます」のごあいさつ

hakodate_11食育イベントの会場にも、ボランティアスタッフのヘルスメイトさんが作った「はこだてげんきなこ」のタペストリーが。

離乳食教室以外のさまざまな取り組みについてもお話をうかがいました。

澤中:保育園や幼稚園では「パクパク教室」という食育教室を行っていて,フードモデルやシールブックを使って,食材を働き別に赤・黄・緑と色分けして食べものの働きを伝える栄養講話、子育てアドバイザーさんによるペープサートやエプロンシアターなど、子どもたちに少しでも興味を持ってもらえるようにしています。
他にも、ヘルスメイトさんが作った野菜入りの蒸しパンを作って、子どもたちに食べてもらったり。

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ーーどれも、子どもにとって親みやすい内容ですね。子どもたちの反応はどうですか?

澤中:野菜入りの蒸しパンは、国産のミックスベジタブル(インゲン、コーン、人参)を使っているんですが、普段、自分のお家やお弁当だと食べないものでも、お友達と一緒だと食べてくれたりするんです。
栄養の話を聞いたあとで、興味が湧いて・・ということもあるみたいですね。
子どもたちの反応を見ているとうれしいし、やってよかったなと思います。

ーーインゲンって、うちの娘もそうなんですが、苦手な子が多い食材ですよね。こうしたちょっとしたきっかけで、興味を持ってもらえたり食べてくれるようになるのはうれしいですよね。

清水:函館市では,4ヶ月,10ヶ月,1歳6ヶ月,3歳児の健診受診者全員に栄養相談を行っています。昨年までは3歳児健診の待ち時間に,食をテーマにしたエプロンシアターや絵本の読み聞かせで,子ども達に食に興味を持ってもらえるような取り組みも行っていました。

 

ーー栄養相談では、お母さんたちからどんな声がありますか?

澤中:そうですね。「なかなか食べてくれない」という相談があるんですが、そういう時は「お母さんの顔、怖くないですか?」って聞くようにしているんです。

ーーそれは、ドキッとしますね!・・というか、今ドキッとしました。笑

ーー「ひと口でいいから食べて!」ってなってしまう時ってあるんですよね。その場を終わらせるために必死になってしまって。(スタッフたてまゆ)

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澤中:大人も子どもも、食事の時間が楽しくなくなったら苦痛になってしまいますよね。そこで、ハッと気づいて少しでも切り替えてもらえれば。

清水:お母さんがギリギリになってしまうと、どうしても食卓がキリキリしてしまいますよね。大人の人がうまく工夫して、食卓の中で楽しめる雰囲気を作れると良いんですけど。
私たちも、今は子育てから一歩引いた身だから言えるけれど、渦中にいる人の気持ちもわかるんです。

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子育ての渦中にいると、なかなか一歩引いて見られないのも現実です。
「好き嫌いが多い」「食が細い」わが子を見ていると、大人になってもこのままだったら? と不安になってしまいますよね。

栄養士としてお仕事をされている清水さんと澤中さんに、素朴な疑問をなげかけてみました。

ーー今は、栄養士としてお仕事をされているお二人ですが、子どもの頃から食に興味があったのでしょうか?

二人:ふふふ。

澤中:私、実は専業主婦になりたかったんです。それで、夫と子供に毎日バランスの良い食事を作ってあげたくて、管理栄養士になりました。

ーーわぁ!ステキですね。

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澤中:いえいえ。気づいたら、栄養士として仕事をつづけていて、家庭と両立できているかはわからないですが・・楽しく仕事させてもらっています。
家でのご飯は、理想通りに・・とはいかない日もありますが、周りのみなさんに「ありがたい」と感謝してもらえることが多い仕事なので、嬉しいですよね。

ーー家族だけじゃなく、より広い範囲で市民の皆さんのためにお仕事することになったんですね。清水さんは?

清水:私は、父が東京都の農業高校の教員だったので、家の本棚に食物に関する本や、微生物、醸造に関する本なんかも並んでいる環境だったんですが、実は子どもの頃はそれほど興味がなくて・・。
それに、小さい頃は食べない子だったので両親は苦労したと思います。それが今は、栄養士になっているのでわからないものですよね。

ーー子どもの頃は、あまり食べなかったというのは意外です。そういった方が今はこうして栄養士としてお仕事されていると知ると、希望が持てるというか。どうしても目の前の子どもの姿に「ずっとこのままだったら・・」と思ってしまうので。

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清水:そうですよね。私も息子が2人とも好き嫌いはないけれど、食べる量が少なかったので悩みましたね。職業が栄養士でもそれはそれ、これはこれ、というか。

ーー私も母が栄養士でしたけど、3人姉弟でそれぞれに好き嫌いってやっぱりありましたね。母も毎日働いていたので、栄養バランス完璧!という日ばかりではなかったですし。
プロの方でもできる日、できない日があるというのは、お母さんたちの励みになると思います。

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最後にお二人に、食育活動を通して皆さんに伝えていきたい想いをうかがいました。

澤中:理想は高くありますが、今よりも少しでも良くなってもらえれば・・と思っています。今日のイベントだと、ミニトマト70gをプレゼントしているんですけど「これだったらできるかな」ということから、始めてもらえると良いですね。

清水:人間の体って、自分が食べたものからできていくんですよね。最近は、どこかその感覚が忘れらているような感じがありますけど、「自分が食べたものから自分ができている」ということを少し意識してもらうだけでも、食事への向き合い方って変わるんじゃないかなと思います。

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お二人にお話をうかがって、「好き嫌いなく食べさせなきゃ!」と思っていたのが・・すっと肩の力が抜けました。食に興味を持つきっかけも、嫌いなものを口にしてみるタイミングも、その子によってさまざま。
ひとりで何とかしようと思うと、一歩引いた目線で見られなくなってしまうこともありますが、専門の人に相談することや、イベントなどを通してヒントをえながら、できる範囲で食卓が楽しくなる工夫していけば良い。

読んでくださった方が、少しでも肩の力を抜いて、子どもとの日々の食卓を楽しむきっかけになればうれしいです。

函館市では、今後も食育のイベントを予定していますので、近くにお住いの方はぜひ足を運んでみてくださいね。

函館市 食育イベントのご案内
〜命を支える食卓見直しプロモーション事業(牛乳・乳製品編)〜

日時:平成30年9月1日(土)10時00分~16時00分
会場:函館蔦屋書店(石川町85-1) 1階 キッチン(パネル展示は休憩スペースDEN)
内容:乳製品おやつ(ミルクもち)の作り方デモンストレーション見学と試食,パネルの展示等

「食生活改善普及運動月間」に、簡単にできる乳製品おやつ作り方のデモンストレーション見学と試食等で牛乳・乳製品を手軽に食卓に上げるきっかけとなるようなイベントを開催します。

イベントの詳細はこちら

蔦屋書店の居心地の良さに、家族3人すっかり虜になって思わず長居してしまった取材となりました。
清水さん、澤中さん、ありがとうございました!

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WRITER

食育フリーマガジン『mogmag(モグマグ)』代表取締役 編集長。
食育アドバイザー/幼児食インストラクター。

寒くて暑い旭川市出身。幼少期はおもに、自然豊かな「お米とでんすけすいかの街」当麻町にある祖母の家で、田んぼと畑を走り回って過ごしました。「思い出にはいつも食べものがある」食いしん坊の料理好きです。
大学進学を期に北海道をはなれ、都会の荒波にもまれる。卒業後、札幌にうつり印刷会社、広告代理店などをへて、2010年実父とお酒と音楽のお店 oyacoをオープン。
デザイン、イベントの企画運営、店舗運営に携わり、「占ナイト」「モテナイト」などユニークなイベントを展開。2012年惜しまれつつ閉店しました。
2012年よりフリーランスのグラフィックデザイナーとして活動し、2013年に長女を出産。
子育てをきっかけに「子どもと食」の大切さを見直し、2015年食育フリーマガジンmogmag(モグマグ)を創刊しました。
「ママも子どもも笑顔の食卓」をテーマに情報を発信し、おいしい笑顔をはぐくんでいます。
北海道新聞『朝の食卓』にて、コラム執筆中です。

ブログもご覧ください。
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http://www.sayakat.com

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